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「実印」は差し押さえ禁止→「金印」を作れば「税務署」は手出しできないってホント?
2024年03月21日 10時29分

税金や借金の返済を滞納してしまった場合、財産を差し押さえられてしまうことがあります。しかし、すべての財産が差し押さえられるわけではありません。

国税庁のサイトでは、差し押さえが禁止されているものが挙げられています。

たとえば、滞納者や生計を同一にしている配偶者や親族などの「生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具」がそれに当たります。農家であれば農具など、滞納者の職業や営業に欠かせないものも、差し押さえられません。

また、「実印」や仏具、神具、御神体など「礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物」も同様に差し押さえられません。

最近、X(旧ツイッター)では「実印は差押禁止財産なので、全財産で金を買い、実印にすることで税務当局からの差し押さえを逃れられる可能性がある」という情報が注目を集めています。

「金印」といえば、まるで弥生時代(※)のようですが、はたして現代の差し押さえから逃れることができるのでしょうか。池田誠弁護士に聞きました。

——ずばり、実印を金で作った場合、差し押さえを回避できるのでしょうか。

たしかに、国税徴収法75条1項6号、民事執行法131条7号は「実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの」を差押禁止動産として挙げています。

したがって、材質によらず、市区町村に登録されている実印なら、原則として、差し押さえを回避できることになります。

もっとも、法律が実印を差押禁止動産にした趣旨は、一般に、実印が本人にしか利用価値がなく、市場価値も低いためです。

したがって、あえて実印を金で仕立て、相応の市場価値を生じた場合には、差し押さえを禁止した趣旨には合致しないことになります。

ですから、その趣旨に照らせば、「差押禁止動産に該当しない」と評価されるか、差押禁止動産の範囲の変更の申立て(民事執行法132条1項)を通じ、差し押さえの対象となる可能性が生じます。

ただし、先に述べたような趣旨を通じて、実印の差し押さえを認めた事例は確認できませんでした。

——同じように金で仏像や神像を作り、礼拝や祭祀に欠かせないと主張すれば、差し押さえを回避できますか。

仏像なども、国税徴収法75条1項7号、民事執行法131条8号によって差押禁止動産に挙げられています。

したがって、やはり原則は、材質によらず、差し押さえを回避できることになります。

ただし、国税徴収法75条の解釈にかかる通達では、「礼拝の対象としないで商品、骨とう品等となっているもの」は、差押禁止動産にはならない旨が解説されています。

そのため、金で仏像を急ごしらえしても、現に礼拝の対象としていなければ、たとえ礼拝に不可欠だと主張しても、差し押さえを免れることはできません。

現に礼拝の対象としているか否かは、相続税において非課税財産とされている「庭内神し(ていないしんし)」に関し、その敷地等が非課税となるための判断基準を示した国税庁の質疑応答が参考になりそうです。

その基準を仏像の例に置き換えると、(1)仏像の設置場所や設置方法などの外形的な側面、(2)仏像を購入した経緯、(3)礼拝と仏像の関連性ないし仏像の重要性から、現に礼拝の対象としているか否かを判断することになります。

——結局、高価なものは「差押禁止動産」の対象にならない傾向にあるのでしょうか。

実印と異なり、法律が仏像などを差押禁止動産にしているのは、市場価値の一般的な多寡によるものではなく、礼拝の対象とされている仏像などが本来取引の対象とならないことと、信教の自由の保護によるものです。

したがって、現に礼拝の対象となっていれば、市場価値が高いことのみでは差押禁止動産の地位は揺るぎません。

仮に、全財産を投じた金で実印や仏像などを作り、運よく差し押さえを免れたとしても、その行為は、滞納処分免脱罪(国税徴収法187条1項)または強制執行妨害目的財産損壊等の罪(刑法96条の2第1項)の要件に該当するおそれがあります。

これらの罪にあたる場合、3年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金、またはその両方の刑罰が科される可能性があります。

少なくとも、債権回収側に立っている弁護士としては、ここまで視野に入れて活動しています。その点も含め、差し押さえを免れるために金で実印や仏像などを作ることはおすすめしません。

(※)弥生時代、漢の皇帝が奴国王に金印を与えたとされる

税金や借金の返済を滞納してしまった場合、財産を差し押さえられてしまうことがあります。しかし、すべての財産が差し押さえられるわけではありません。

国税庁のサイトでは、差し押さえが禁止されているものが挙げられています。

たとえば、滞納者や生計を同一にしている配偶者や親族などの「生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳および建具」がそれに当たります。農家であれば農具など、滞納者の職業や営業に欠かせないものも、差し押さえられません。

また、「実印」や仏具、神具、御神体など「礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物」も同様に差し押さえられません。

最近、X(旧ツイッター)では「実印は差押禁止財産なので、全財産で金を買い、実印にすることで税務当局からの差し押さえを逃れられる可能性がある」という情報が注目を集めています。

「金印」といえば、まるで弥生時代(※)のようですが、はたして現代の差し押さえから逃れることができるのでしょうか。池田誠弁護士に聞きました。

●金でつくった実印でも差し押さえの対象となる可能性

——ずばり、実印を金で作った場合、差し押さえを回避できるのでしょうか。

たしかに、国税徴収法75条1項6号、民事執行法131条7号は「実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの」を差押禁止動産として挙げています。

したがって、材質によらず、市区町村に登録されている実印なら、原則として、差し押さえを回避できることになります。

もっとも、法律が実印を差押禁止動産にした趣旨は、一般に、実印が本人にしか利用価値がなく、市場価値も低いためです。

したがって、あえて実印を金で仕立て、相応の市場価値を生じた場合には、差し押さえを禁止した趣旨には合致しないことになります。

ですから、その趣旨に照らせば、「差押禁止動産に該当しない」と評価されるか、差押禁止動産の範囲の変更の申立て(民事執行法132条1項)を通じ、差し押さえの対象となる可能性が生じます。

ただし、先に述べたような趣旨を通じて、実印の差し押さえを認めた事例は確認できませんでした。

●仏像を金でつくったらどうなる?

——同じように金で仏像や神像を作り、礼拝や祭祀に欠かせないと主張すれば、差し押さえを回避できますか。

仏像なども、国税徴収法75条1項7号、民事執行法131条8号によって差押禁止動産に挙げられています。

したがって、やはり原則は、材質によらず、差し押さえを回避できることになります。

ただし、国税徴収法75条の解釈にかかる通達では、「礼拝の対象としないで商品、骨とう品等となっているもの」は、差押禁止動産にはならない旨が解説されています。

そのため、金で仏像を急ごしらえしても、現に礼拝の対象としていなければ、たとえ礼拝に不可欠だと主張しても、差し押さえを免れることはできません。

現に礼拝の対象としているか否かは、相続税において非課税財産とされている「庭内神し(ていないしんし)」に関し、その敷地等が非課税となるための判断基準を示した国税庁の質疑応答が参考になりそうです。

その基準を仏像の例に置き換えると、(1)仏像の設置場所や設置方法などの外形的な側面、(2)仏像を購入した経緯、(3)礼拝と仏像の関連性ないし仏像の重要性から、現に礼拝の対象としているか否かを判断することになります。

——結局、高価なものは「差押禁止動産」の対象にならない傾向にあるのでしょうか。

実印と異なり、法律が仏像などを差押禁止動産にしているのは、市場価値の一般的な多寡によるものではなく、礼拝の対象とされている仏像などが本来取引の対象とならないことと、信教の自由の保護によるものです。

したがって、現に礼拝の対象となっていれば、市場価値が高いことのみでは差押禁止動産の地位は揺るぎません。

●それでも弁護士が実印や仏像を金でつくることを勧めない理由

仮に、全財産を投じた金で実印や仏像などを作り、運よく差し押さえを免れたとしても、その行為は、滞納処分免脱罪(国税徴収法187条1項)または強制執行妨害目的財産損壊等の罪(刑法96条の2第1項)の要件に該当するおそれがあります。

これらの罪にあたる場合、3年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金、またはその両方の刑罰が科される可能性があります。

少なくとも、債権回収側に立っている弁護士としては、ここまで視野に入れて活動しています。その点も含め、差し押さえを免れるために金で実印や仏像などを作ることはおすすめしません。

(※)弥生時代、漢の皇帝が奴国王に金印を与えたとされる

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