この事例の依頼主
70代 女性
お父様が9ヶ月前に亡くなりました。相続人はご依頼者様とご妹様の2名です。お父様は公正証書遺言を残しておられ、同遺言書には、ご妹様に全ての遺産を相続させると書いてありました。お父様の主たる遺産は自宅である土地建物で、同所にはご妹様がお住まいです。ご依頼者様はご妹様に遺留分侵害額請求をしましたが、ご妹様からはお返事がないままでした。ところが、ご依頼者様は新聞の折込み広告を見てお父様の遺産であるご自宅土地建物が売りに出されていることに気づきました。ご依頼者様の疑問点① まだ遺留分に関する紛争が解決していないのに自宅土地建物を単独で売却することができるのですか。公正証書遺言に基づき単独相続した旨の登記が出来ます。そのうえで単独で売却することが出来ます。また民法改正前の遺留分減殺請求権は遺贈や相続した遺産の現物返還を原則としていましたが、民法改正後の遺留分侵害額請求権は金銭請求権なので遺言により相続した遺産を売却したとしても、これによって不法行為が成立することもありません。② 自宅土地建物を売却されてしまっても遺留分侵害額の支払いを受けることはできるのですか。自宅土地建物の売却によって遺留分侵害額請求権が消滅することはありません。しかし、遺産が不動産から売却代金という流動性の高い資産に変わりますと散逸のおそれが高くなります。③ 自宅土地建物の売却を止めて欲しいと妹に頼むことはできますか。ご妹様に自宅土地建物の売却の中断をして欲しいと頼むことはできても、これに応じるかどうかはご妹様のお気持ち次第です。自宅土地建物の売却を止めるには地方裁判所に処分禁止の仮処分の申立をすることになります。保全の必要性が認められれば処分禁止の仮処分がなされます。
御依頼を受けてまず内容証明郵便文書にてご妹様に遺留分侵害額請求の意思表示をすると同時に遺産の範囲についてお尋ねをしました。ところが、ご妹様からは何らご連絡がありませんでした。自宅土地建物が売却されてしまうと遺留分侵害額請求訴訟を提起して勝訴判決を得ても回収不能に陥るおそれがあったため、処分禁止仮処分の申立てをしました。申立後審尋を経て保証金を納めると、仮処分決定が下りました。その後暫くすると、ご妹様から連絡があり、遺留分侵害額についての協議をすることができました。協議の結果、当初考えていた通りの金額を一括払いしてただくことができました。和解成立後仮処分を取下げて保証金も返還されました。受任から解決までおよそ3カ月で解決に至りました。
仮処分は財産の保全を目的とするものですが、本件のように協議のきっかけにもなります。リスクもありますが、仮処分申立てが適した案件を見極めて今後も活用していきたいと思います。