この事例の依頼主
50代 男性
もともと小さな建築関係の会社を経営されていた方でしたが,バブル崩壊後の不況の影響下で資金繰りが厳しい状況が続き,数年前に事実上廃業して,現在は全く別の業種の会社で勤務されている方でした。廃業の際には取引先との売掛金,買掛金等はきちんと清算され,事務所も解約済みで,従業員にも事情を話して円満に退職してもらっていましたが,会社には,信用金庫から借り入れた運転資金の借入が約1000万円ほど残っており,個人としても連帯保証をしていました。また,会社が苦しい時期に,個人名義で消費者金融やカードローンで借入をして会社の運転資金に充てるということを繰り返しており,このような債務が約500万円ほどありました。新しい勤務先での収入も決して多くはなく,生活するのが精一杯で,ここ1年ほどは,債権者には全く返済ができないまま放置していた状況でしたが,最近になってカードローン会社の1つから訴訟を起こされ,弁護士に相談することになりました。ご本人は,会社を廃業した直後,自暴自棄になって借入金でキャバクラなどで高額の飲食を繰り返してしまい,その額が100万円以上になることや,最近体調のすぐれない奥様が被保険者となっている医療保険を解約しなければならないかなどを気にかけておられました。
債務総額や資産・収入の状況などから,会社と個人の自己破産申立てを行う方針としました。会社については,既に資産もない休眠会社となっていましたので,個人と同額の弁護士費用でご契約いただきました。また,相談時のお話から,消費者金融については多少の過払金が発生している可能性が高いと思われたことから,弁護士費用についてはひとまず毎月1万円ずつの分割払いとして,早急に過払金を回収し,弁護士費用に充てる方針としました。既に訴訟を起こされていることから,迅速な処理を心がけ,過払金を回収して破産管財人費用等が確保でき次第,申立てが行えるように準備を進めたところ,受任から4か月後に2社から合計80万円ほどの過払金を回収することができ,ほどなく申立てを行うことができました。破産管財人からは,高額の飲食を繰り返した浪費について反省文の提出を求められましたが,弁護士とも相談しながら,当時の心境や債権者に対してかけてしまった迷惑を見つめ直して反省文を提出したところ,無事に免責決定を得ることができました。また,医療保険についても,事情を詳しく説明して自由財産の拡張を申し立てた結果,これが認められ,解約したり,代わりにお金を納めたりすることなく,そのまま掛け続けることができました。
破産事件を取り扱う弁護士にとっては,ありふれた,ごく普通の案件ですが,ご本人にとってはそうではありません。この方も,生まれて初めて訴訟を起こされ,自分ではとても返しきれない借金を抱えて,今後,自分や家族の生活がどうなってしまうのか,不安でならないというご様子でした。自己破産という手続は知っていても,自分の場合でも認めてもらえるのか分からない,破産するといろいろなデメリットがあるのではないか,弁護士費用が払えないのではないか,など,心配事を山ほど抱えておいででした。そういった心配事をすべてお伺いし,「大丈夫です。何とかなりますよ。」と申し上げたところ,文字通り「肩の荷を下ろした」ようなご様子でお帰りになりましたが,そのようなご様子を拝見していると,弁護士も,ご期待に添えるよう全力で取り組もうという気持ちがあふれてくるものです。本件は,法律的に大きな問題点がある事案ではありませんでしたが,無事に手続が終了した時には,大変喜んでいただき,弁護士にとっても印象に残る案件となりました。