この事例の依頼主
50代 女性
相談前の状況
亡遺言者の長女Xの申立により家庭裁判所の審判で遺言執行者に選任され、亡遺言者の遺産について執行した事例です。自筆証書による遺言書に、長屋の土地建物について、「借家人Aの居住する土地建物は長女Xに贈与する。和菓子屋Bの居住する土地建物は長男Yに贈与する。文房具屋の土地建物は二男Zに贈与する。」と記載されています。土地の分筆、建物の分割について、どこを境界線とするかは、何も指定されていませんでした。
解決への流れ
遺言者の意思が、長屋の土地建物を1戸ずつ分け、3人の子供らに取得させることにあるのは、遺言書の記載から明確でした。しかし、その意思を実現する方法(執行の方法)については、遺言書には具体的な記載がなく、意思解釈が必要でした。遺言者の意思を解釈し、長屋の1戸ごとに、壁芯を境界に区分建物とし分割し、敷地の土地を建物の境界線に沿い分筆するという方法で執行しました。建物分割、土地分筆については、土地家屋調査士の協力を得ました。
自筆証書遺言の遺言者は、法律の細かい手続までをあまり知らないのがむしろ普通で、遺言書に、具体的な執行方法が記載されていないことは、往々あると思われます。だからといって、そのような遺言を、執行ができない(不能)と即断するのは誤りで、私は、この事案を通じ遺言者意思の解釈が肝要であると認識させられました。また、遺言者は、何よりも、自分の死後、残された子供たちの幸せを願い、財産を一番良い形で渡したいと考えたはずであり、遺言執行者は、この遺言者の意思実現を託された立場にあると実感しました。