この事例の依頼主
20代 男性
二輪車で走行中の交通事故で,歯牙破折の傷害(13級5号)を負った被害者について,インプラント治療費,将来のインプラント更新費・メンテナンス費等が認められた事案被害者の属性 20代(男性 学生)事故の分類 二輪車で直進中に,対向車線を右折進行してきた車両と衝突負傷部位 歯傷病名 歯牙破折後遺障害等級 13級5号賠償金額 520万(過失相殺あり)依頼者は,残存した後遺障害が将来の生活に与える影響に不安を感じるとともに,保険会社から提示された金額が妥当であるのか判断できなかったために,ラグーンへご相談いただきました。
当初,保険会社が提示してきた損害総額(過失相殺後のもので,既払い金を除く)は370万円でした。特に,後遺障害慰謝料については60万円と低額な提示しかなされておらず,全体としても適正な賠償額からはほど遠い提案内容でした。既に後遺障害等級の認定を受けていた事案でしたが,事前認定(相手方の任意保険会社経由で等級の認定を受ける手続)でしたので,そもそも後遺障害等級について適正な内容であるのか確認をする必要があると判断される事案でした。そこで,ラグーンでは,まず保険会社に資料の開示を求めるとともに,医師面談を実施することにしました。本件では,後遺障害慰謝料等の典型的な損害項目の他に,インプラント治療をしているという特殊性がありましたので,将来発生することが予測されるインプラントのメンテナンスや更新費についても請求の可能性があると判断され,その意味でも医師面談が必要であると考えられる事案でした。医師面談の結果,主治医から,将来,歯周囲炎等の発症を防止し,インプラントを耐用年数まで維持するためには定期的なメンテナンスが必要との見解を得ることができました。そこで,主治医の見解を踏まえ,将来のインプラント更新費・メンテナンス費等が発生することを前提に,保険会社と交渉し,示談をすることができました。また,後遺障害慰謝料についても,歯牙破折の事案においては逸失利益(労働能力の低下をともなうもの)が認められにくいものの,事実上本人の生活に支障をきたすことは間違いないことを理由に,通常の基準(赤い本基準)よりも,増額して保険会社と交渉をしました。もちろん,交渉にあたっては,保険会社を説得するためにできる限り客観的証拠を準備しなければいけませんので,他の裁判例を調査し,これに主治医の意見を踏まえて話を進めました。最終的には,加害者側も弁護士を介入させることになりましたが,以下の内容で和解に至りました。和解結果(細かい損害項目は省略)治療費 220万傷害慰謝料 105万後遺障害慰謝料 190万将来のインプラント更新費・メンテナンス費 85万総額 約 520万 当初の保険会社提示額との差額 150万円
歯牙破折でインプラント治療を行なっている場合,将来のインプラント更新費やメンテナンス費等の損害項目が発生しうることに注意が必要です。つまり,当然のことながら,インプラントにも耐用年数がありますので,古くなれば更新をしなければいけませんし,インプラントの影響で歯周囲炎となり本来の耐用年数を待たずにインプラントを維持できなくなるリスク等を防止するために年に数回定期的なメンテナンスをしなければなりません。インプラント治療にともないこれらの費用を要する可能性は極めて高いのです。ところが,本件の依頼者がそうであったように,保険会社側からインプラントの更新・メンテナンスに要する費用を賠償する内容の提示が最初からなされることはありません。そのため,主治医に協力を求め,医師面談をする等して,医学的な知識をある程度有していなければ,適正な賠償を受けられない可能性があるのです。幸い,今回のケースでは,依頼者が下関市内でインプラント治療に詳しい歯科医院に通院していたため,早期に主治医の協力を求めることができたました。その結果,比較的スムーズに加害者側を説得することができました。また,歯牙破折の事案については,後遺障害逸失利益の有無(後遺障害慰謝料として請求する場合には後遺障害慰謝料の金額)も争点となることが多くあります。現状では,13級5号の場合には,職種にもよりますが,基本的には逸失利益の認定は否定される傾向が多いように感じます。本件では,被害者の細かい事情をヒアリングしましたが残念ながら逸失利益の請求は難しそうでした。そのため,ラグーンでは,被害者の心情面に配慮して,後遺障害慰謝料を通常の基準よりも増額して請求をすることにしました。結論的には,全面的に当方の請求が認容されたわけではありませんが,通常の基準よりも増額した後遺障害慰謝料を前提とした示談をすることができました。今回のケースのように,損害賠償請求にあたって,法的な知識と医学的な知識は車の両輪の関係にあります。そのため,ラグーンでは原則として全件について医師面談を実施しています。これは,地元の法律事務所であるからこそできる強みであると考えています。医師面談で主治医と連携し,万全な体制で損害賠償の交渉に挑むことが重要です。